先日、日経MJから『2017年ヒット商品番付』が発表されました。
そこでなんと、『東の小結』に、今年、業界を騒然とさせた『シワ取り化粧品』が選出されました。
他の番付を見ると、「アマゾン・エフェクト」(東の横綱)、「安室奈美恵」(東の大関)、「i phone X」(東の前頭)、「任天堂ゲーム機」(西の横綱)、「株高」(西の前頭)、「ハンドスピナー」(西の前頭)など、誰もが知る、世の中に大きな影響を与えた商品・人物ばかりなので、この中に『シワ取り化粧品』が選出されたことは、業界人の一人として大変うれしく思います。
「2017年ヒット商品番付」に選ばれるほど、話題になった『シワ取り化粧品』。
これは、ポーラと資生堂の偉業ですが、ここにきて、シワ領域における「ポーラ VS 資生堂」の頂上決戦決着か?と思わせるような動きがみられました。
今回は、シワ領域における「ポーラ VS 資生堂」の、その後の展開をお話しをするとともに、化粧品開発者の私が、ポーラ、資生堂、どちらが優位の立場にいるかを述べたいと思います。
この記事を書いている人
コスメデイン
- 大手化粧品メーカーで15年以上化粧品開発を担当
- 今も現役の化粧品開発者
- 美容雑誌の監修経験あり
- 現役の化粧品開発者が業界の最前線で得てきた知見を「コスメの真実」としてお届けします!
美容雑誌の監修に協力させて頂きました(一部抜粋)
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2017年ヒット商品番付
「ヒット商品番付」とは、日経MJが発行している番付で、消費者動向や世相を踏まえ、売れ行き・開発の着眼点・産業構造や生活心理に与えた影響などを、総合的に判断しています。
大相撲のように、東と西があり、東の方が西より格上ではありますが、この番付にのるモノ全てが、その時代の人々の生活に大きな影響を与えた商品・人物であることは間違いありません。
このような栄誉ある番付に、『東の小結』として、化粧品業界から『シワ取り化粧品』が選出されたことは、大変喜ばしいことです。
※厳密に言うと、「シワ取り薬用化粧品」or「シワ取り医薬部外品」ですが・・・
シワ取り化粧品
私もこのブログで記事にしてきましたが、「シワ取り化粧品」は、『ポーラと資生堂』の偉業です。簡単にこれまでの経緯をまとめます。
長らく日本では、『シワに効く』とか『シワが改善する』といった表現を、化粧品や医薬部外品にすることは出来ませんでした。 『シワ』に対する効果効能表現が認められていなかったんですね。
※メイクアップ効果の場合は認められています
一方で、シワに対して改善効果のある化粧品は、ユーザーニーズが高く、現に欧米では、シワ改善効果を化粧品に表示し、販売することが認められています。 このような背景から、業界団体(日本化粧品工業連合会)が、かねてより厚生労働省に要望し、2011年、『乾燥による小ジワを目立たなくする』という表現を、『化粧品』に表示し販売することが可能になりました。
※「化粧品機能評価法ガイドライン」に基づく試験、もしくは、これと同等以上の試験を、化粧品メーカーの責任において実施し、その効果を確認したうえで、試験を行なったことを製品に表示する必要があります
しかし、『医薬部外品(薬用化粧品)』に関しては、依然としてシワに対する効果効能表現は認められていませんでした。
そのような状況下、『ポーラ』が、シワに対する有効成分『ニールワン』を開発し、その効果を国が認め、ついに、2017年1月、日本初のシワを改善する医薬部外品、『ポーラ リンクルショット メディカル セラム』が発売されました。
2017年は、『シワ取り化粧品元年』なんですね。このポーラの偉業は本当にすごくて、私自身、化粧品業界において、21世紀を代表する出来事ではないかと思っています。
ポーラの偉業に対し、日本No.1の化粧品メーカー『資生堂』が黙っているわけがありません。
ポーラから遅れること、約半年。「資生堂」は、ポーラと同じく、シワ改善 医薬部外品「エリクシール シュペリエル エンリッチド リンクルクリームS」を発売しました(2017年6月21日発売)。
資生堂は、従来から用いられている成分『レチノール』に、日本で初めて、『シワ改善』という『新しい効果』を見出し、国から認可を得ました。
ポーラの「ニールワン」はシワを改善する『新規物質』、資生堂の「レチノール」は既存物質ですが、シワを改善するという『新しい効能』を可能にしました。
シワ領域は、当面、ポーラの独走と思いきや、資生堂の登場により、シワ領域における『ポーラ VS 資生堂』の、頂上決戦がスタートしたんです。
ポーラ VS 資生堂 頂上決戦 出だし
シワ取り化粧品日本初は、正真正銘、『ポーラ』です。ですから、「ポーラ」には「日本初」・「発売が先」という大きな『アドバンテージ』がありました。
実際、発売1ヶ月で『約25万個(約36億円)』という驚異的な売り上げを誇っており、9月末の段階では、販売総数『80万個』を突破しています。
「ポーラ」の出だしは絶好調でしたが、相手は、日本No.1化粧品メーカーの『資生堂』ですから、簡単に勝たせてくれません。
私は過去記事で、『資生堂が有利』と論じていますが、なにも難しいことではなく、多くの方が「資生堂有利」と予測していたはずです。
「商品・技術の差」というより、『販売力の差』です。「資生堂」が誇る販売力は圧倒的です。「ポーラ」では太刀打ち出来ません。詳細は以下記事をご覧ください。
とはいえ、化粧品開発者の私は、いくら資生堂の販売力がすさまじくとも、『ポーラ』を応援しています。
何故なら、上記の記事でも触れていますが、資生堂のシワ改善メカニズムは『表皮』に着目し、『表皮』にアプローチしていますが、ポーラの着目・アプローチ先が『真皮』だからです。
勿論、シワの原因は様々で、「表皮由来」も考えられるでしょう。ですが、寄与率で言えば、シワやたるみに関しては、『真皮に起因する』と、私はずっと考えていましたから、『真皮』に着目し、アプローチしている『ポーラ』を支持しています。
ポーラが9ヶ月で「80万個」の販売のところ、資生堂はわずか3ヶ月で「100万個」を超えています。さすが!といった数字ですが、ポーラの数字もすごいですから、ポーラにとっては、大ヒット商品で、化粧品業界の歴史に残る名品だと言えるでしょう。
ポーラ VS 資生堂 頂上決戦 決着?
2017年は『シワ取り化粧品元年』。
今後、ポーラ・資生堂以外の化粧品メーカー・原料メーカーから、シワ改善が期待できる新しい有効成分が開発されるでしょう。
シワ取り化粧品の戦いが開始された2017年ですが、「ポーラ VS 資生堂」の頂上決戦に、大きな動きがみられました。
以前の記事でも書きましたが、化粧品メーカー同士の厳しい戦いの中で、勝負を決するのが、次に続く、『第2第3の商品・戦略』だと私は考えています。
では、ポーラ・資生堂の第2第3の商品・戦略を見てみましょう。
ポーラ
2017年1月1日、ポーラから、日本初のシワ取り化粧品(シワ改善医薬部外品)、『ポーラ リンクルショット メディカル セラム』が発売されました。
20gで15,000円(税抜き)という高価格帯でありながら、爆発的なヒットを記録しています。
そんなポーラの第2の戦略として、2018年1月1日より、販売価格を15,000円(税抜き)から、『13,500円(税抜き)』に改定するようです。
よりお求めやすい価格にして、ユーザー獲得を図る狙いでしょうか。
価格改定以外に目立った戦略は無いようです。
資生堂
ポーラから遅れること約6ヶ月、2017年6月21日、資生堂から純粋レチノールをシワ改善の有効成分とした『エリクシール シュペリエル エンリッチド リンクルクリームS』が発売されました。
価格は、15gで『6,264円(税込み)』。
「エリクシール シュペリエル エンリッチド リンクルクリームS」の発売からわずか5ヶ月弱、2017年11月1日、SHISEIDOブランドから『バイタルパーフェクション リンクルリフト ディープレチノホワイト4』を発売。
この商品、なんと、シワの有効成分に『純粋レチノール』、美白の有効成分に『4MSK(4-メトキシサリチル酸カリウム塩)』を配合した、『シワ改善&美白のW有効成分』の医薬部外品です。
「エリクシール」ではなく、「SHISEIDO」と、ブランドを変えてきましたが(表情プロジェクトの一環)、これはとんでもないことです。
Wの有効成分を配合した医薬部外品を、我々は『W主剤』と言ったりもしますが、一般的なW主剤は、ビタミンC誘導体とアルブチンの「美白&美白」、アルブチンorビタミンC誘導体とグリチルリチン酸ジカリウムorトラネキサム酸の「美白&肌荒れ」が一般的です。
これ以外のW主剤は、申請上のハードルが高く、あまり存在しません。それなのに、『シワ改善&美白のW主剤』を実現させるなんて、資生堂の圧倒的技術力を見せつけられました。
ユーザー以上に、業界関係者、特に薬事担当者や研究開発者への衝撃は相当なものだったでしょう。それだけ、資生堂の『シワ改善&美白』はすごいことです。
資生堂の勝利?
ポーラの「リンクルショット メディカル セラム」は素晴しい商品です。シワ領域に、新たな歴史を刻みました。しかし、ポーラの第2第3の戦略は、事実上の『値下げ』です。
確かに、15,000円という価格は高価ですが、改定後の13,500円という価格はお手頃でしょうか?高価格には変わりありませんし、それほどのインパクトがあるとは思えません。
しかも、値下げは価値を下げる行為ですから、これだけの技術・商品に対して行うべきかは疑問です。対抗品である資生堂の価格設定を考えると、値下げせざる得ない事情は分かりますが、ポーラがすべきことは、値下げ(価格改定)ではなく、『新商品の追加』ではないでしょうか?
せっかく、これだけの話題をさらった商品ですから、市場が注目しているうちに、第2第3の新商品を投入しなければ、劇戦を繰り広げている熾烈な化粧品業界の中で、頂点に立つことは出来ません。
ユーザー・市場が求めているのは、「値下げ(価格改定)」ではない。例えば、世の中に美白シリーズがあるように、ポーラ独自のシワ改善有効成分「ニールワン」を配合した、『シワ改善 新スキンケアシリーズ』のような、第2・第3の『新製品』を求めているのです。
資生堂は見事にその期待に応えました。第1弾発売後、わずか5ヶ月弱で、第2の新商品を発売してきました。しかも、『シワ改善&美白』という、とんでもなくすごい商品を。
この状況を見ると、『資生堂の勝利』と思う方も多いはず。しかし実は、重要なことを見落としています。
ポーラのシワ改善の有効成分「ニールワン」は、『新規物質』のため、『市販後2年間の経過調査(市販後調査)』が義務付けられています。
簡単に言うと、発売後2年間は、ユーザーが安全に使えているかをしっかり調査し、万一、重篤な肌トラブルなどが確認されたらすぐ報告しなさいというものです。
しかも、市販後調査期間中の2年間は、他の商品に「ニールワン」を配合出来ません。
ですから、ポーラの「リンクルショット メディカル セラム」が、公式ホームページからの通販では購入出来ず、百貨店を中心としたカウンセリング販売限定にしているのは、『市販後調査』のため、万一のことを考えて、購入者を追及し特定するためです。
また、事実上の値下げをせざる得なかったのは、資生堂の第2弾『シワ改善&美白のW有効成分』に対し、他の製品へ「ニールワン」が配合出来ない現状ですから、価格改定以外に策がなかったというのが正直なところではないでしょうか。
ポーラの誤算は、資生堂が『既存物質』の「純粋レチノール」で、新効能(シワ改善)の認可を得たことでしょう。資生堂も『新規物質』であれば、ポーラと同じく、市販後調査が必要ですから、販路も限定されるでしょうし、新商品への配合も2年間は出来ません。
すると、先に新規物質で認可を得たポーラが、大変有利になります。
しかし、資生堂の「純粋レチノール」は、これまで肌荒れの有効成分として用いられてきた『既存物質』ですから、市販後調査の必要はありません。販路は自由ですし、2年間、他商品へ配合出来ないという縛りもありません。
このように、市販後調査の必要がない資生堂は、ポーラが自由に出来ない2年間、様々なことが出来ますから、現状、資生堂が大きくリードしていると言えるでしょう。
しかし、これで決着ではありません。市販後調査中の2年間、ポーラでは様々な研究開発をするはずですから、市販後調査終了後の、ポーラの新商品・戦略が楽しみです。
ポーラは、ずば抜けた技術力を有する化粧品メーカーですから、市販後調査後の新製品・戦略によっては、資生堂を凌駕することは十分考えられます。
益々、シワ領域は面白くなりそうですね。資生堂・ポーラだけではなく、花王をはじめとする他の大手メーカーの動向にも目が離せません。
おわりに
いかがでしょうか?
「資生堂」が「ポーラ」を引き離し、大きくリードしています。それだけ、SHISEIDOブランドからの新商品、『バイタルパーフェクション リンクルリフト ディープレチノホワイト4』の『シワ改善&美白のW有効成分』はすごいことなんです。
しかし、市販後調査後のポーラの新商品・戦略にも大きな期待が持てますから、シワ領域における「ポーラ VS 資生堂」の頂上決戦、資生堂がリードしていますが、まだ決着はついていません!場合によっては、ポーラ・資生堂以外の第三勢力が、一気に駆け上がるかもしれません。
個人的には、先に述べましたが、『真皮』に着目し、アプローチしている「ポーラ」を応援していますし、カネボウの白斑問題の最中、新規物質を開発し、市販後調査が必要ではありますが、効果と安全性面で国を納得させ、認可を得たことは大変素晴らしいことです。
「ポーラ」のシワ改善有効成分「ニールワン」は、『新規物質』です。全く新しい化合物ですから、安全性や処方化のハードルがかなり高く、『市販後2年間の経過調査(市販後調査)』も義務付けられています。
一方、「資生堂」のシワ改善有効成分「純粋レチノール」は『既存物質』です。従来の化合物に、シワ改善という『新しい効能』の認可を得たのが「資生堂」のパターンです。
既存の化合物ですから、安全性や処方化のハードルは、新規化合物の「ポーラ」に比べて圧倒的に低いですし、市販後調査も必要ありません。
だからこそ、わずか5ヶ月弱で、新商品の追加が実現したのです。
「新規化合物」か「既存化合物」か、どちらがいいとは言えませんが、その後の追加商品までの期間を考えると、今の薬機法(旧薬事法)下においては、「既存物質」の方がいいかもしれませんね。
ですから、資生堂・ポーラに続けと、他の化粧品メーカー・原料メーカーが新しいシワ改善有効成分を開発してくると思いますが、「新規化合物」ではなく、資生堂のパターンのように、既存化合物にシワ改善という新たな効能を見出す方向に行くのではないでしょうか?
であれば、「ビタミンC誘導体」や「プラセンタエキス」あたりが候補に挙がっているのか?
今後のシワ領域に大いに期待です。
※本記事の内容は個人の見解であって効果を保証するものではありません