

この記事で分かること
- 化粧品に表示されている「自然由来指数」の意味
ナチュラルコスメとオーガニックコスメの市場は成長を続けていますが、その基準の曖昧さが最大の課題です。
この記事では、現役の化粧品開発者の視点から、ナチュラル・オーガニックコスメの新しい国際基準(自然由来指数)について解説します。
この基準により、ナチュラル・オーガニックコスメの市場はどのように変わるのか、そして消費者にとってどのような意味を持つのかを深く掘り下げます!
この記事を書いている人
コスメデイン
- 大手化粧品メーカーで15年以上化粧品開発を担当
- 今も現役の化粧品開発者
- 美容雑誌の監修経験あり
- 現役の化粧品開発者が業界の最前線で得てきた知見を「コスメの真実」としてお届けします!
美容雑誌の監修に協力させて頂きました(一部抜粋)
これまでのナチュラル・オーガニックコスメ市場
ナチュラルコスメやオーガニックコスメほど、基準があいまいで怪しい領域はありません。
最大の理由は、統一されたルールが存在しないこと。
各メーカーがそれぞれの自社基準で運営しているため、成分を見ても「これ本当にナチュラルコスメ?」と首をかしげたくなる製品が少なくありません。
実際、ナチュラル原料はほんのわずかで、ほとんどが合成成分にもかかわらず、「少しでもナチュラル成分が入っていればナチュラルコスメ」として宣伝している製品が多数存在します。
■ 怪しい表示の実例
例えば、「90%以上を植物由来成分と水で構成」と表示している商品がありましたが、認定NPO法人からは次のような指摘を受けています。
「90%のうち何%が植物由来成分なのか不明。実際よりも植物由来成分が多く含まれているような印象を与える可能性がある。」
実際には大部分が水で、植物由来成分はごくわずかというケースがほとんどです。
■ 統一基準がないことによる弊害
このように、統一基準がない現状ではユーザーは誤解や不利益を被ることがあります。
本当に自分に合うナチュラル・オーガニック製品を選ぶためには、メーカーが考えるナチュラル・オーガニックの定義や理念を理解し、共感することが大切です。
また、メーカー側もユーザーに対して、自社の考え方や基準をわかりやすく発信することが求められます。
これまでのナチュラル・オーガニックコスメ
- 明確な統一基準が存在しないため、何をもってナチュラル、オーガニックと言うかは、メーカーの自社基準にゆだねられる
- 時に、ユーザーが不利益を被るような、とんでもないナチュラル、オーガニックコスメが存在する
これからのナチュラル・オーガニックコスメ市場:ISO 16128
現在のナチュラル・オーガニックコスメ市場では、メーカーごとの自社基準により定義がバラバラで、ユーザーが誤解や不利益を被る可能性がありました。
この状況を改善するため、化粧品業界団体は正しい情報をわかりやすくユーザーに提供する必要があると判断しました。
そこで策定に着手したのが、「ISO 16128に基づく自然およびオーガニックに係る指数表示ガイドライン」です。
簡単に言えば、バラバラだったナチュラル・オーガニックコスメの基準を、国際レベルで統一する取り組みです。
■ ISOとは?
ISO(国際標準化機構)は、1947年に設立された非政府機関で、160カ国以上が参加しています。
様々な産業における基準を国際標準として定める役割を担っています。
日本では日本化粧品工業連合会(JCIA)が専門部会を立ち上げ、日本代表として国際会議に参加。日本の意見を積極的に発信し、ISO 16128の成案に大きく貢献しました。
■ ISO 16128導入で期待される効果
- メーカーごとのバラバラな基準を国際基準で統一
- 成分由来や配合率を数値(指数)で明確化
- ユーザーが透明性の高い比較・選択を可能に
この基準の統一化により、これからのナチュラル・オーガニックコスメはどのように変わっていくのか、次の項目で詳しく解説します。
これからのナチュラル・オーガニックコスメ
- 何をもってナチュラル、オーガニックと言うかが、明確な基準によって、国際レベルで統一化される
- ユーザーが不利益を被るような、とんでもないナチュラル、オーガニックコスメが一掃される
ISO 16128に基づくガイドライン詳細
ここではISO 16128の概要を、一般ユーザー向けにわかりやすく解説します。
複雑な計算式や専門的な数値は割愛し、ポイントだけを整理しました。
■ 原料の定義
ISO 16128では、コスメの原料を以下の6種類に分類します。
- 自然原料
- オーガニック原料
- 自然由来原料
- オーガニック由来原料
- 鉱物由来原料
- 非自然原料
特に評価できるのは、これまで曖昧だった由来の表現を明確化したこと。「自然由来」や「植物由来」といった言葉が曖昧だったため、ユーザーが誤解しやすい要因となっていました。
さらに「水」についても、4つのカテゴリに分けて細かく規定。
従来は全成分表示で「水」とだけ書かれていましたが、その配合方法や由来によって分類が変わります。
ポイント 全ての配合原料がどの定義に該当するかを明確にしなければならず、メーカーには高い知識と対応力が求められます
■ 原料処理
原料はコスメに使う前に、さまざまな処理が行われます。
例えば:
- 粉砕・圧搾などの物理処理
- 自然に起こる発酵反応
- 化学的な改質を伴う化学的処理
処理方法によって原料の分類が変わるため、同じ成分でも「自然由来原料」になったり、「オーガニック由来原料」になったりします。
従来の日本のナチュラルコスメでは、ここまで細かく考慮していないケースが多く、ISO 16128はこの点でも透明性を高めています。
■ 指数表示
ISO 16128の最大の特徴が指数表示です。
従来は「天然由来成分90%以上配合」といった表示が多くありましたが、この数値には多くの場合「水」が含まれており、実際の植物成分の割合は不明確でした。
ISO 16128では、次の4種類の指数を定めています(それぞれ「水を含む」「水を含まない」の2パターン)。
- 自然指数
- 自然由来指数
- オーガニック指数
- オーガニック由来指数
計8種類の指数の中から選び、製品に表示します。
これにより、水を含む割合と含まない割合が明確になり、ユーザーは実際の成分比率を把握できます。
ここが重要! ISO 16128では「植物由来」「天然由来」といった曖昧な表現は認められず、必ず4種の用語(自然・自然由来・オーガニック・オーガニック由来)を使用します
■ 表示例(ISO 16128準拠)
- 自然指数50%(水を含まない)ISO 16128準拠
- 自然由来指数70%(水を含む)ISO 16128準拠
- オーガニック指数30%(水を含まない)ISO 16128準拠
このようにISO 16128では、成分の由来とその正確な割合を明示することで、ナチュラル・オーガニックコスメの透明性と信頼性を向上させています。
注意点
■ ISO 16128は「化粧品そのもの」を規定していない
ISO 16128は、ナチュラルコスメやオーガニックコスメの配合原料に関するガイドラインであり、製品そのもの(化粧品)を規定するものではありません。
そのため、「自然化粧品(ISO 16128準拠)」や「オーガニック化粧品(ISO 16128準拠)」といった表記は禁止されています。
■ 法的拘束力はない
もっとも重要な注意点は、この新基準には法的拘束力がないということです。
つまり、化粧品メーカーは必ずしも従う必要はなく、これまで通り「植物由来原料○○%配合」や「天然由来原料○○%配合」といった表現を使っても違法にはなりません。
ユーザー目線でのメリット
基準が統一されれば、メーカー間の競争条件が公平になり、誤解を招くようなナチュラル・オーガニックコスメは淘汰されやすくなります
しかし、これはあくまで「基準が浸透した場合」の話。
法的拘束がないため、広く普及させるには時間がかかると考えられます。
■ メーカーが導入をためらう理由
- 新基準で計算すると、これまでの表示より数値が低く見える
- 「植物由来原料」という表現そのものが使えなくなる
- 数値が下がることで、他社製品より見劣りする可能性がある
このため、他社が導入しない限り、自社だけで採用するメリットは少なく、導入に慎重になるメーカーが多いのです。
おわりに
いかがだったでしょうか?
ナチュラル・オーガニックコスメ市場は、基準が曖昧なまま成長を続けています。
ISO 16128は、この分野に明確な国際基準を導入し、消費者に正しい情報を提供する大きな一歩です。
ただし、この新基準は法的拘束力がないため、実際に市場全体へ浸透するには時間と努力が必要です。
消費者にとってのメリットは非常に大きいだけに、より多くのメーカーがこの基準を採用し、健全で透明性の高い市場が形成されることを期待します。
※本記事の内容は個人の見解であって効果を保証するものではありません