
『クレンジング』にはオイル・リキッド・クリーム・バームなど、様々なタイプがあります。その中で、塗布すると温かく感じる『温感タイプ』のクレンジングがあります。
それが、『ホットクレンジング』。
予想以上に温かいので、初めてお使いの方はその温かさに驚かれると思います。ただ、このホットクレンジング、非常に面白いですが、ネット上には以下のウワサが溢れています。
ホットクレンジングは落ちない!肌に悪い!
今回の記事では、現役の化粧品開発者の私が、このウワサの真相について解説いたします。
ホットクレンジングは何故温かく感じるのか?
まずこの疑問から。
ホットクレンジンは何故、温かく感じるのか?
ホットクレンジングの商品周りには、これに関して詳しい記述がないので、ここでご説明します。
保湿成分として有名な成分に『グリセリン』がありますが、この「グリセリン」、水に触れると『水和熱』と言われる『熱』を発生します。
この『水和熱』が、ホットクレンジングの熱の正体です。
ホットクレンジングには、水がほとんど配合されておらず、大部分がグリセリンです。これを塗布すると、肌上の水分に反応して『水和熱』を発生します。
ただし、この「水和熱」は、「熱い!」と感じる程の高温ではなく、「あたたかい」と感じるレベルです。
また、長時間、持続するものではありません。さらに、肌上の水分と反応するということは、人によって肌の水分量は違いますから、人によって感じる温感レベルは異なります。
通常の基礎スキンケア品(化粧水・乳液・クリーム)にも、「グリセリン」は配合されていますが、熱を感じることはありません。
何故なら、通常の基礎品には、『水』が配合されていますから、製造時、「グリセリン」と「水」が触れた瞬間に、既に水和熱が発生しています。
水和熱は、持続するものではありませんし、一度水和したら、再度、熱を発生することはありませんから、グリセリン配合の基礎品を使用して、熱を感じることはありません。
熱を感じるホットクレンジングでは、配合成分の大部分がグリセリンである事と、水が配合されていない事が絶対条件になります。
ホットクレンジングで、水が表示されているケースはありますが、これは『エキス由来』の水であり、非常に微量なため、水和熱及び、温感に影響を与えることはありません。
これが、ホットクレンジングのメカニズムです。
塗布中、温かさを感じるホットクレンジングは、非常に面白いアイテム。
しかし一方で、他のクレンジングに比べて、メイクが落ちない!肌に悪い!というウワサがあるのも事実。
このウワサの真偽、結論から言うと、
落ちない!というのは言い過ぎですが、ホットクレンジングは、
他のクレンジングに比べてメイクが落ちにくい!
そして、使い方によっては、
物理的な刺激によって肌に悪い!
次項で詳しくご説明します。
ホットクレンジングはメイクが落ちにくい!
ホットクレンジングは他のクレンジングに比べてメイクが落ちにくい!
何故なら、
クレンジングに配合されているメイクを落とす成分は、『油』と『界面活性剤』です。
オイルクレンジングやバームクレンジング、クリームクレンジングでは、主に『油』がメイクを落とし、リキッドクレンジングでは『界面活性剤』がメイクを落とします。
しかしホットクレンジングは、メイクを落とす源である「油」や「界面活性剤」が、十分な量、配合出来ないです。
微量であれば配合可能ですが、メイクを落とすほどの量を配合すると、必然的にグリセリンの量が少なくなり、温度を感じにくくなるからです。
「温感」を重視すれば「クレンジング力」が劣り、「クレンジング力」を重視すれば「温感レベル」が極端に下がる
つまり、「温感」と「クレンジング力(メイク落ち)」は相反するモノであり、両立させる事は非常に難しい。
これが、ホットクレンジングはメイクが落ちない!のウワサの真相です。
さらに詳しく説明すると、
高い美容液成分量
ホットクレンジングの場合、『界面活性剤』を増量すれば、クレンジング力が上がり、メイクが落ちるようになります。
しかし、
ホットクレンジングは大部分がグリセリンですから、90%等、『高い美容液成分量』を訴求するケースが多いです。
美容液成分90%以上のような、高い美容液成分量を訴求するホットクレンジングをご覧になったことありませんか?
ここで重要なのは、界面活性剤は美容液成分にカウントされないという事。
界面活性剤の配合量を増やせば、メイクが落ちるようになりますが、美容液成分量が減ってしまいます。
高い美容液成分量の訴求を重視するほど、界面活性剤量が減る=メイクが落ちない、となるのです。
安定性
先ほども述べたように、ホットクレンジングの場合、『界面活性剤』を増量すれば、メイクが落ちるようになる。
しかし、高い美容液成分配合量の訴求がそれを阻みます。
実は、もう一つ阻む要因があるのです。
それが『安定性』。
ホットクレンジングの配合成分の大部分が『グリセリン』です。
クレンジング力を上げるために配合される界面活性剤は、すすぎの水での洗い上がりを考慮して、『親水性』(水と馴染みが良い)のモノが多いです。
グリセリンも親水ですから、グリセリンと界面活性剤は馴染みます。しかし、それには『限度』があり、その限度を超えると、余分な界面活性剤が外に出てしまいます。
つまり、界面活性剤を増やせばクレンジング力は上がりますが、安定性が悪化するのです。
コスメの場合、製造後3年間の品質保証が義務付けられていますから、界面活性剤があふれ出てしまうような品質では商品として成り立ちません。
以上のように、ホットクレンジングの場合、界面活性剤を増やせばメイク落ちは良くなりますが、界面活性剤を増やすと、
温感レベルが極端に下がってしまう
美容液成分の配合量が減ってしまう
安定性に大きな影響を与えてしまう
このように、総合的に判断すると界面活性剤の配合量には限界があるため、オイルやバーム、クリーム(高内相)に比べると、ホットクレンジングはメイク落ちが劣ってしまうのです。
ですから、ウォータープルーフタイプのメイクや目元用メイクであれば、ホットクレンジングよりも、メイク落ちに優れるオイルやバーム、クリーム(高内相)タイプをおすすめします。
ホットクレンジングは肌に悪い!
ホットクレンジングは物理的な刺激によって肌に悪い!
前述したとおり、オイルやバームに比べてホットクレンジングは、メイクが落ちません。何故なら、温感レベルの低下と美容液成分量の減少、安定性の悪化により、クレンジング成分の源である「油(オイル)」と「界面活性剤」が、十分な量、配合出来ないからです。
ただし、実際ホットクレンジングを使ってみると分かるのですが、
処方内容のわりに、ホットクレンジングはメイクが落ちる!
何故なら、
ホットクレンジングは使いやすさを考慮して、『ジェルタイプ』がほとんどです。ジェル状にしないと、垂れてしまって使いにくいからです。ですから、グリセリン超高配合のホットクレンジングを、カルボマーなどの増粘剤でジェル状に固める必要があるのです。
通常の、大部分が水のジェルはすっきりとした使用感ですが、大部分がグリセリンのホットクレンジングジェルは、非常に粘性がある、ねちょっとした感じで、肌に絡みつくような使用感なんです。
※この粘性のため、ホットクレンジングジェルの製造・充填は結構大変です
ホットクレンジングジェルは、メイクを落とす源である、「油(オイル)」と「界面活性剤」を十分な量、配合出来ませんが、このねっちょりとした物性によって肌に絡みつくので、処方内容のわりに、メイクが落ちるんです。
つまり、ホットクレンジングジェルのメイク落ちは、オイルや界面活性剤がメイクに馴染む、メイクを浮かせる、ではなくて、
ねちゃっとしたグリセリンジェルが、肌に絡みついてメイクを落とす
そしてこれは、
肌をゴシゴシする行為となり、『物理的刺激』につながる
この物理的な刺激こそ、ホットクレンジングは肌に悪い!の真相です。
基本、クレンジングは毎日行います。当然のことながら、日常的な物理的刺激は肌に悪影響を与えますし、アイメイク等しっかりメイクになればなるほど、ゴシゴシが強くなる(物理刺激が増す)ので注意が必要です。
ホットクレンジングジェルの温感メカニズムは非常に面白いのですが、個人的には、メイクの落ちにくさと、肌刺激(物理刺激)の点からあまりおすすめはしていません。でも、ホットクレンジングは売れているので、何で?と疑問に思っています。
クレンジングであれば、オイルクレンジングか、高内相クリームクレンジングが超おすすめです。
特に、高内相クリームクレンジングこそ、『クレンジングの理想形』です。
※本記事の内容は個人の見解であって、効果を保証するものではありません