実は、
日焼け止めコスメに配合されている酸化チタンや酸化亜鉛は紫外線散乱剤ではない!!
酸化チタンや酸化亜鉛というと、日焼け止めコスメでは『紫外線散乱剤』として扱われるケースが多いですが、実は、これは大きな間違いです。
この記事では現役の化粧品開発者の私がプロの視点で、日焼け止めコスメに配合される酸化チタンと酸化亜鉛について詳しくご説明します。
この記事を書いている人
コスメデイン
- 大手化粧品メーカーで15年以上化粧品開発を担当
- 今も現役の化粧品開発者
- 美容雑誌の監修経験あり
- 現役の化粧品開発者が業界の最前線で得てきた知見を「コスメの真実」としてお届けします!
美容雑誌の監修に協力させて頂きました(一部抜粋)
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酸化チタンや酸化亜鉛は「吸収剤」でもあり「散乱剤」でもある!
酸化チタンや酸化亜鉛と聞くと、多くの人が「紫外線散乱剤」だと理解しているかもしれません。
実際、化粧品関連の情報発信者の中でも、「酸化チタン=散乱剤」「酸化亜鉛=散乱剤」とだけ説明しているケースが多く見られます。
しかし、本当のところは少し違います。
最重要ポイント
酸化チタンや酸化亜鉛は、紫外線吸収能と紫外線散乱能の両方を持つ、非常に優れたUV対策成分です
■ 「散乱剤」だけじゃない! 吸収する性質も持つ理由
「吸収剤=有機化合物」「散乱剤=無機化合物」という分類が一般的ですが、実際はもっと複雑です。
酸化チタンや酸化亜鉛は無機化合物であるにもかかわらず、紫外線を吸収する力も持っているのです。
特に酸化チタンは、光触媒としても広く知られており、その働きの中に「光=紫外線」を吸収する性質があることがわかります。
■ なぜ「散乱剤」と呼ばれてきたのか?
海外では、日焼け止め成分全体を「UVフィルター」と表現し、吸収・散乱の違いをあまり強調しません。
一方、日本では酸化チタンや酸化亜鉛を主力とするメーカーが多く、それらを「散乱剤」と呼ぶのが一般的でした。
しかし、最新の研究や実験では、粒子サイズや構造によって吸収・散乱のバランスが変わることも明らかになっています。
項目 | 酸化チタン | 酸化亜鉛 |
---|---|---|
UVBカット | ◎ 高い効果 | ◯ そこそこ |
UVAカット | △ やや弱い | ◎ 高い効果 |
光触媒活性 | あり(注意が必要) | 低い |
散乱能 | ◎ | ◎ |
吸収能 | ◯ | ◯ |
■ 「ナノ問題」と海外の影響
ヨーロッパでは、「ナノ粒子が危険」という論調が広がり、酸化チタンや酸化亜鉛の使用が懸念された時期もありました。
しかし、日本の化粧品メーカーによる安全性試験の蓄積により、酸化チタン・酸化亜鉛のナノ粒子は問題ないという結論が導かれています。
■ まとめ
- 酸化チタンや酸化亜鉛は、紫外線を「跳ね返す」だけでなく「吸収」する力も持つ、多機能な成分
- 「散乱剤」と一言で片づけず、その本質を理解することが、よりよいコスメ選びにつながる
「吸収剤」としての酸化チタン・酸化亜鉛
コスメにおいて「酸化チタン」は、『日焼け止め』や『ファンデーション』・『コンシーラー』・『リップ』など、多くのアイテムに配合されています。
これらアイテムの中で、『日焼け止め』と、「ファンデーション」や「コンシーラー」・「リップ」などの『色モノ』では、配合される酸化チタンの『種類』と『目的』が違います。
「日焼け止め」の酸化チタンは、『紫外線カット』のために配合されており、『微粒子酸化チタン』(酸化亜鉛の場合は微粒子酸化亜鉛)と言います。
全成分では「酸化チタン」と表記されてしまいますが、日焼け止めには、非常に粒子が細かい『微粒子』の酸化チタンが用いられます。
一方、「色モノ」に配合される酸化チタンは、『隠ぺい力』のために配合されており、『顔料級酸化チタン』と言います。
先程同様、全成分では「酸化チタン」と表記されますが、日焼け止めの微粒子酸化チタンに比べ、粒子がかなり大きい酸化チタンが用いられます。
酸化チタンには『吸収能』と『散乱能』があると先ほど説明しましたが、これらは「微粒子」や「顔料級」といった、酸化チタンの『粒子の大きさ』によって左右されます。
粒子が小さい『微粒子酸化チタン』には、十分な「吸収能」と「散乱能」がありますが、粒子が大きい『顔料級酸化チタン』には、「吸収能」はほとんどなく、大部分を「散乱能」が占めます。
これらの寄与率は、なかなか一概に言えませんが、日焼け止めに配合される「(微粒子)酸化チタン」は『吸収と散乱』、色モノに配合される「(顔料級)酸化チタン」は『散乱のみ』と考えて頂いて構いません。
(微粒子)酸化チタンや(微粒子)酸化亜鉛の「吸収能」には、『バンドギャップエネルギー』が関係してきますが、これは専門的すぎるので、機会があれば別記事で解説させて頂きます。
吸収剤というと『光分解』が必ず話題になります。
「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル」のような『有機化合物』の紫外線吸収剤は、紫外線を吸収すると、別の物質(構造体)に変化し、いずれ『分解』します。
「分解」すると、紫外線を吸収する能力が無くなりますから、これら吸収剤を配合した日焼け止めは、紫外線カット能力が持続しません。
ですから、日焼け止めコスメを使う際は、『塗り直し』が必須なのです。
一方、吸収剤としての『(微粒子)酸化チタン』は、紫外線を吸収して別の物質に変化する訳ではなく、分子内で電子が移動するだけですから、分解はしません。
吸収剤としての(微粒子)酸化チタンは、「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル」のような有機化合物の吸収剤に比べ、光(紫外線)に対して『超安定』です。
ただし、無意識のうちに触ったりして、物理的な力で落ちてしまいますから、酸化チタン配合の日焼け止めでも『塗り直し』をおすすめします。
このように、日焼け止めに配合されている(微粒子)酸化チタンや(微粒子)酸化亜鉛は、紫外線を『吸収』して、カットします。
「散乱剤」としての酸化チタン・酸化亜鉛
「微粒子酸化チタン」の『微粒子の定義』ですが、明確な定義はなく、コスメの業界では、一次粒子径が『100nm以下』を微粒子として扱うケースが多いです。
現在の日焼け止めに配合される微粒子酸化チタンは、一次粒子径『10nm』が主流ですが、実際は、一次粒子の状態で存在することはなく、凝集して10nm以上になっています。
酸化チタン配合の日焼け止めでは、『白浮き』という表現が良く使われます。
これは、日焼け止めを塗ったら「白くなった」という意味ですが、微粒子酸化チタンの中でも、粒子が大きいと白くなります。
この「白さ」が、まさに『散乱効果』です。
微粒子酸化チタン・微粒子酸化亜鉛は、粒子が大きくなればなるほど、『散乱能の寄与率』が高まりますが、『紫外線カット効果』は低下します。
ですから、(微粒子)酸化チタンの白浮きは好ましい事ではなく、『メーカーの技術力を知る指標』になります。
白浮きする日焼け止めは、技術レベルが低いということです。
『散乱剤』としての(微粒子)酸化チタン・(微粒子)酸化亜鉛は、有機化合物の吸収剤に比べ、『幅広い紫外線領域をカットする』という特長を持ちます。
※酸化チタンは主にUV-B領域、酸化亜鉛は主にUV-A領域
以下記事では、SPF値だけを考えれば、人の紅斑反応を引き起こしやすい『315nm付近だけ』をカットすればよいと言いました。
しかし、「315nm以外」の紫外線による肌ダメージは無視出来ませんから、SPF値に直接関係しなくとも、幅広い紫外線領域をカットすることは非常に重要です。
(微粒子)酸化チタンと(微粒子)酸化亜鉛は、有機化合物の吸収剤のように、特定波長に『吸収ピーク』を持つわけではなく、幅広い波長の紫外線を『散乱』させ、カットしますから(ブロードスペクトル)、非常に有用だと言えます。
おわりに
いかがでしょうか?
日焼け止めコスメに配合される「酸化チタン」や「酸化亜鉛」は、『紫外線散乱剤』と言われていますが、実際には、「吸収能」と「散乱能」の両方を持っていて、『紫外線吸収剤&紫外線散乱剤』と考えるのが正解です。
実際、皆様が日焼け止めコスメを使う際は、あまり関係がないかもしれません。しかし、吸収剤として考えた際の酸化チタンと酸化亜鉛の『光安定性』は超優秀ですから、これらの情報を踏まえ、ご自身にあった日焼け止めをお選びください。
※本記事の内容は個人の見解であって効果を保証するものではありません