化粧品は『界面化学』という学問のうえに成り立っています。
ですから、化粧品の研究開発者は、大学で界面化学を専攻した人間が多いです。
今回は、化粧品の基礎ということで、化粧品の『剤型』について説明いたします。
この剤型、通常、ユーザーの方には関係ありませんが、このブログ内でもこれから頻繁に出てきますし、何より、剤型のことを知ってると、化粧品を選ぶ際に大変参考になるので、是非、この記事を読んで知って頂きたいと思います。
界面活性剤とは?
化粧品は『水』と『油』で出来ています。商品の全成分表示を見ると、水と様々な油の表示がありますよね?
しかし、仲が悪いさまを「水と油」と表現するように、通常、水と油は混じり合いません。
水と油を混じり合わせるための成分が『界面活性剤』です。
界面活性剤を、『乳化剤』と表現することもあります。
上図が界面活性剤の模式図です。
界面活性剤は水となじみのよい(水の性質を持った)『親水基』と、油となじみのよい(油の性質を持った)『疎水基(親油基)』を持っています。
つまり、界面活性剤は、親水基と疎水基から成るので、『水と油、両方の性質』を有しているのです。
剤型とは?
水と油が一緒になると、図のように、両者は混ざらず、比重の軽い油が上にいきます。
この状態でいくらかき混ぜても、絶対に混ざり合うことはありません。
しかし、界面活性剤が存在すると、片方が『細かい液滴』となって、水と油は混ざります。
何故なら、界面活性剤は、水と油、両方の性質を持っていますから、水と油の仲を取り持って、両者を混ざり合わせることが出来るのです。
このように、お互いに混ざり合わない液体の一方を、細かな液滴にして、他方に混ぜること(正確には、他方に分散させること)を『乳化』と言います。
そして混じり合った状態のことを『エマルション(エマルジョン)』or『乳化物』と言います。
細かな液滴となって混ざると(分散すると)、光の屈折率の関係で、『白濁』します。
ですから、エマルションである乳液やクリームは白いのです。
図に示した通り、エマルションには2種類の型があり、このエマルションの型のことを『剤型』と言います。
もう少し詳しくご説明します。再度、図をご覧ください。
水と油の中に界面活性剤を入れてかき混ぜます。
すると、油の周りに界面活性剤が『配向』して、油が細かな液滴になります。
この液滴が水の中に分散して、水と油が混ざり合うようになります。
このように、水の中に油が分散したものを、「oill in water」から、『o/w(オーパーダブル)』、もしくは、『水中油』と言います。
食品で言えば、『牛乳』が水中油に該当します。
反対に、油の中に水が分散したものを、「water in oil」から、『w/o(ダブルパーオー)』、もしくは、『油中水』と言います。
食品で言えば、『バター』が油中水に該当します。
つまり、化粧品には、『水中油(o/w)』と『油中水(w/o)』の2つの『剤型タイプ』が存在するのです。
厳密にいうと、「o/w/o」のような「マルチプルエマルション(複合エマルション)」も存在しますが、ここでは、「水中油」と「油中水」、2つの「剤型タイプ」を覚えてください。
細かな滴で分散しているものを『内相』、分散させているもう一方を、『外相』もしくは『連続相』と言います。
水中油の場合、内相は『油』で、外相は『水』です。油中水の場合はその逆で、内相が『水』で外相が『油』になります。
また、「水中油」、「油中水」どちらの剤型タイプになるかは、『界面活性剤の種類』によって決まります。
ですから、化粧品を開発する時、水中油、油中水、どちらの剤型にするかを決めて、界面活性剤を選択します。
一方を細かな液滴として他方に分散させる際、液滴が多いほど『粘度』は高くなります。
水中油(o/w)を例にとると、乳液は、化粧水に比べて、少しドロッとしていますよね。これを粘度があると表現しますが、乳液は、水の中に油が分散しているエマルション(乳化物)なので、粘度があります。
この液滴をもっと増やしたもの(油を増やしたもの)がクリームです。クリームは乳液以上に粘度がありますよね。
このように、一方の液体の量によって、エマルションの粘度をコントロールして、乳液にするか、クリームにするかを決めることも出来ます。
乳液やクリームなどの化粧品は、通常では混ざり合わない水や油が、界面活性剤の力を借りて『分散』しているだけです。『溶解』しているわけではありません。
ですから温度や紫外線などの外的要因によって、液滴の周りに存在する界面活性剤の配向が崩れると、分散状態を保つことが出来なくなります。
これが『分離』です。
乳液やクリームなどのエマルションは、水や油が「溶解」しているわけでなく、「分散」していると説明しましたが、溶解する場合もあります。
それが『化粧水』です。
『香料』配合の化粧水はたくさんありますよね。
香料は油の特性に近いので、水には溶けません(水溶性のものもありますが稀です)。
ですからこのままでは、化粧水に配合することは出来ません。
そこで『界面活性剤』の登場です。
化粧水に香料を配合する場合、その配合量はわずかです。このように、配合量がわずかな場合、界面活性剤によって、化粧水に香料を溶解させることが出来ます。
これを『可溶化』と言います。
化粧水の全成分表示を見ると、界面活性剤の記載がありますよね。
「肌なじみの向上のため」ですが、「香料を可溶化させるため」にも配合するのです。
おわりに
いかがでしょうか?
化粧品の『剤型タイプ』、『水中油(o/w)』と『油中水(w/o)』について、お分かりになりましたか?
正直、ユーザーにとって、水中油だろうが油中水だろうが、関係はありません。
ですから、例えば、デパートの販売員の方や訪問販売員の方、ドラッグストアの方に聞いても、その化粧品が水中油なのか、油中水なのか、お分かりにならないと思います。
水中油や油中水という『剤型タイプ』は、商品コンセプトを具現化し、感触に優れた化粧品を作るための手段でしかありません。
感触がユーザーに支持されれば、水中油だろうが油中水だろうが関係ないと言えばその通りです。
ですが、この剤型タイプによって、感触や機能に大きな差が出ます。
一番顕著に差が出るのが、『化粧もち』です。
水中油と油中水の日焼け止めやファンデーションでは、化粧もちが全然違います。油中水の方が圧倒的に化粧もちが高いです。
ただし、商品の周りに剤型タイプの記載はありませんので、ユーザー側はそれが水中油なのか油中水なのか、判断が出来ません。
私達は『全成分表示』を見れば判断が出来るので、今後、各アイテムごとの特徴を説明する際に、剤型タイプについても触れさせていただきます。
最近は、全成分を見て化粧品を選ぶ方も増えてきました。
水中油、油中水といった剤型タイプは、その化粧品の特徴に大きく影響してきますので、是非、皆様、これを機会に覚えて頂ければと思います。
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