日焼け止め化粧品に必ず配合されている成分、それが『紫外線吸収剤』です。紫外線吸収剤は、お肌を紫外線から守るために重要な成分です。
しかし皆様、紫外線吸収剤について、その特徴をご存知でしょうか?
成分のことを知り、ご自身がお使いのコスメのことを理解すれば、一層、お化粧は楽しくなります。
そこで今回は、『紫外線吸収剤』について、化粧品開発者の私が説明させて頂きます。
ちょっと、ボリュームが大きくなりそうなので、この記事は『前編』とし、様々な紫外線吸収剤の基本的な特徴をご説明します。
様々な紫外線吸収剤
紫外線吸収剤とは、紫外線を『吸収』して、お肌を紫外線ダメージから守る成分で、日焼け止めにはなくてはならない存在です。
吸収剤は、分子量が小さい、『有機化合物』です。故に、『お肌への刺激』が問題になる場合があります(お肌への刺激については、別記事で詳しくご説明します)。
※数は少ないですが、高分子量の吸収剤もあります
ここでは、UVB, UVA双方の、良く用いられる吸収剤をご紹介します。
UVB : メトキシケイヒ酸エチルヘキシル
世界で一番使用されている(コスメ分野にて)吸収剤が、『メトキシケイヒ酸エチルヘキシル』です。UVBを吸収します。
英語表記では、「Octyl methoxycinnamate」と書くので、『OMC』とも言います。
コスメ分野で、世界で一番有名で、世界で一番使われている吸収剤なので、皆様がお使いの日焼け止めや、BBクリームなどのSPF表示コスメに、非常に高い確率で配合されています(ケミカルフリーを除く)。一度、確認してみてください。
「メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(OMC)」は、淡黄色のオイル状で、水には溶けません。コスメでは『油』に分類されます。
また、若干、『におい』があります。日焼け止めって独特の『におい』がありませんか?日焼け止め独特のにおいの正体は、この『OMC』です。
OMCは、ドイツに本社を置く、世界最大級の総合化学メーカーが、主に提供しています。先ほども述べましたが、「OMC」には若干においがあるので、日本のメーカーがOMCの脱臭グレード(においを減らしたモノ)を提供しています。
ですが、それほどの量が市場に出回っているわけではないので、OMCのにおいは、日焼け止めコスメのにおいとして、市場に認知されたかもしれませんね。
「OMC」が世界一、日焼け止めコスメに使用されるには理由があります。それは、『UVBカット能』と『原料価格』です。
『波長280nm~320nm』がUVB領域ですが、吸収剤の場合、この領域全てをカットする訳ではなく、この領域の中で、『特定の波長』をカットします。カットする特定波長は、吸収剤により異なります。
この、吸収剤がカットする特定波長を『極大吸収波長』といい、「Aという吸収剤は極大吸収波長がBnm」と言えば、「Aという吸収剤は、波長Bnmを一番吸収する」と言う意味です。
「OMC」の極大吸収波長は、『308nm』です。SPFに一番影響のある波長は『315nm付近』と言われており、これはつまり、UVB 280nm~320nm全てをカットするのではなく、影響の高い『315nm付近』の波長をカットすれば、効果的に高いSPF値が出せるということです。
「OMC」の極大吸収波長は『308nm』で、315nm付近に位置しています。だから、「OMC」はUVBカット能に優れ、日焼け止めに使用されるのです。
もう一つは、『原料価格』です。圧倒的にコストが安い。
コスメ分野で、世界で最も使われている吸収剤ですから、生産量、流通量が桁違いです。ですから、大幅なコストダウンが可能で、これ以上のコスパの吸収剤は、「OMC」以外ないですし、今後も出てこないでしょう。
唯一の欠点は、『光安定性』です。吸収剤の光安定性に関しては、別記事で詳しくご説明します。
コスメ分野にて、世界で一番使われている吸収剤、それが、『メトキシケイヒ酸エチルヘキシル(OMC)』です。
UVB : オクトクリレン
こちらも有名な吸収剤です。極大吸収波長は『310nm付近』ですが、「OMC」と比べて、『幅広い波長域』をカットします。UVBの吸収剤ではありますが、UVA領域もカットするため、「OMC」と併用されることが多いですね。
と言うのも、先程、「OMC(メトキシケイヒ酸エチルヘキシル)」は、極大吸収が308nmで、効果的に高いSPF値を出せるとご説明しました。しかし、UVB領域は、280nm~320nmです。いくら「OMC」で高いSPF値を実現しても、OMCの極大吸収波長以外のUVB領域はどうするのでしょうか?
SPF値に大きく関係しないとしても、紫外線のお肌へのダメージを考えれば、UVB領域を幅広くカットした方がいいに決まってます。ですから、日焼け止め化粧品では、紫外線吸収剤を『複数配合する』のです。
「オクトクリレン」は、紫外線を吸収する力は「OMC」に敵いませんが、「OMC」に比べ、『幅広い波長域』をカットします。ですから、同じUVB吸収剤である「OMC」と併用することで、高SPFは勿論、『UVB領域の幅広いカット』が期待できます。
「オクトクリレン」の最大の特徴は、『光安定性の高さ』です。吸収剤は、光(紫外線)によって『分解』します。その中でも「オクトクリレン」は、光(紫外線)に対し安定です。
吸収剤は分解すると、紫外線カット能を示しません。ですから、『光安定性』は、吸収剤の最も大きな課題と言えるでしょう。
UVB : フェニルベンズイミダゾールスルホン酸
UVB, UVAカットに限らず、吸収剤は『油性(オイル状)』や『油溶性(粉末状)』が多いです。その中で、「フェニルベンズイミダゾールスルホン酸」は、『水溶性(粉末)』です。
(実際は、中和して使いますが)水に溶けるUVBの吸収剤です。
水に溶けますから、油無配合の化粧水(ローション)や、さっぱり系の乳液(乳化系)に、SPF機能を持たせることが出来ます。しかし、配合出来る上限が『3%』と低く(これだけでは高SPFが困難)、また、仮に化粧水にSPF表示が出来ても、UVAカットが困難で(油系のUVA吸収剤がほとんど)、PA表示が出来ないため、単独で使うメリットはありません。
「OMC」と併用して用いられることがほとんどではないでしょうか。
UVB : ポリシリコーン-15
成分名称からは吸収剤と思えないかもしれませんが、UVBをカットする『吸収剤』です。粘性のある油です。
吸収剤は、『低分子』のものがほとんどですが、「ポリシリコーン-15」は、珍しい『高分子』タイプです。
高分子ですから、安全性が高く(お肌への刺激が少ない)、光に対しても安定です。
ただし、高分子故、使用感がべたつき、重く、多量配合は出来ません。
この「ポリシリコーン-15」は様々な点で、「OMC」の欠点を改善した吸収剤と言えますが、『使用感』、『原料価格』面で、まだまだメジャーの吸収剤には成りえず、「OMC」の補助的役割で使用されます。
個人的には、一番好きなUVB吸収剤ですが・・・。
UVA : t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン
最も一般的なUVA吸収剤が、『t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン』です。『アボベンゾン』とも言われています。油溶性の黄色の粉末です。
極大吸収波長が『357nm』で、UVAをカットします。
日焼け止めって、少し黄色っぽくないですか?黄色の原因は、「t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン」に代表される『UVA吸収剤』です。
UVA吸収剤は、『黄色の粉末(フレーク)』が多いです。UVA(長波長側)をカットするためには、分子構造的に、官能基を横に伸ばす必要があり、結果、どうしても黄色くなってしまうんです。
「t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン」は、先程ご説明した、世界で一番使われているUVB吸収剤、「OMC」によく溶けるので、UVBカットには「OMC」、UVAカットには「t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン」を用いるケースが、最も一般的な吸収剤の使い方です。
ですから、皆様お使いの日焼け止め、及び、BBクリームなどのSPF表示商品に、これら2つの吸収剤は、必ず配合されていると思います。
しかし、吸収剤は光(紫外線)で『分解』します。分解すると紫外線カット能を発揮しませんので、分解は吸収剤の大きな課題と言えるでしょう。
その中でも、この「t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン」は、最も光安定性が悪い(光で分解しやすい)吸収剤の一つなので、最近は、別のUVA吸収剤を用いるケースが多くなりました。
UVA : ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル
黄色のフレーク状(油溶性)です。極大吸収が『360nm付近』にあり、UVAをカットします。
最大の特徴は、『光安定性が高い』ということです。吸収剤は光(紫外線)に対して不安定なものが多く、特に、最も一般的なUVA吸収剤、「t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン(アボベンゾン)」は、優れたカット能を示しますが、『光に対し非常に不安定』です。
ですから、最近の日焼け止めには、UVAカットに、「t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン」ではなく、『ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル』を用いることが多くなりましたね。
UVA : ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸2-エチルヘキシル
UVAの吸収剤は『黄色』が多いため、日焼け止め製剤は、少し黄色になります。
この吸収剤は、『白色の粉末』のため、配合しても製剤は黄色くなりません。
しかし、『溶解性が悪く』、『海外品への配合が禁止』されているため(日本発売の商品にのみ配合可能)、他のUVA吸収剤に比べて使用頻度は低いです。
UVA : ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン
UVAの吸収剤ですが、『幅広い波長領域』をカットします。製剤への配合が難しかったですが、原料メーカーの技術力の進歩で、非常に簡単に製剤へ配合できるようになりました。
さらに、『光安定性』にも優れるため、よく用いられる吸収剤の一つです。
その他にも、「サリチル酸エチルヘキシル」や「ホモサレート」、最近は用いられなくなった「安息香酸誘導体」、「ベンゾフェノン誘導体」。そして、ロレアルの「メギゾリルSX, XL」など、その他にもたくさんの吸収剤があります。
今回は、汎用性が高く、現在の日焼け止めや、SPF表示商品に、よく用いられる吸収剤をご紹介いたしました。
おわりに
いかがでしょうか?
吸収剤に関しては、「吸収メカニズム」、「光安定性」、「安全性(経皮吸収性)」、「使用感への影響」、「国内及び国外の配合規制」など、まだまだ知って頂きたい内容がたくさんあります。
今回の記事で、これらも網羅するつもりでいましたが、ボリュームが大きくなりそうだったので、すぐに別記事をアップします。
ご自身がお使いのコスメが、どんな吸収剤の使い方をしているのかを、一度確認してみてはいかがでしょうか?そのコスメの特徴が分かると思います。
