先日発売された、9月20日号の「週刊新潮」に驚くべき記事が掲載されていました。
私は普段、この手の週刊誌は購読していませんが、喫茶店でたまたま目にしたので、思わず購入してしまいました。
内容は、「皮膚科専門医が警告する化粧品の真実」と題し、化粧品の主成分である界面活性剤が危険!というものです。
しかし、化粧品開発者の立場から言わせれば、これは『大きな誤解であり間違い』です。
今回は、9月20日号「週刊新潮」に掲載された記事に対する、私の見解を述べさせて頂きます。
皮膚科専門医が警告する「化粧品」の真実
この記事には、「美容化学研究所の所長」、「2名のクリニック院長」、「美容化学者」の、4名の美容のプロと称する方が登場しています。
編集の仕方による影響もあるかもしれませんが、美容化学者を除く3名の方が、『界面活性剤=危険』というご意見です。
美容化学研究所の所長が仰るには、「界面活性剤の作用が強すぎるものは、使い続けると肌への負担になり、肌荒れや乾燥肌、敏感肌の原因となる」とのこと。
また、「界面活性剤は細胞膜の構造を破壊し、穴をあけてしまうことで、新たな細胞を生み出し続ける基底細胞(きていさいぼう)にダメージを与えてしまう」。
そして、「皮脂を洗い流し、肌のバリア機能を低下させているのが洗顔、クレンジングであり、最も肌にダメージを与えてしまう瞬間でもある」とまで仰っています。
クリニック院長の方は、「洗顔という日常行為そのものが皮膚常在菌へ悪影響を与える」と主張されています。
肌表面には200種類以上の常在菌が棲んでいます。常在菌の中には「善玉菌」と「悪玉菌」が存在し、善玉菌は、皮脂を食べて、保湿成分の「グリセリン」や「酸性物質」を産生します。
この善玉菌による酸性物質の産生によって、肌表面は『弱酸性』に保たれているのです。
ですから、「保湿成分」や「酸性物質」を産生する善玉菌を、『美肌菌』と言ったりもします。
前出のクリニック院長が仰るには、「石けんなどで一度顔を洗うと常在菌の9割が洗い流され、元の状態に戻るには12時間かかる。だから、一日に二度、洗顔料で顔を洗っていれば、常在菌は正常な分布を示さなくなり、結果として、弱酸性が保てず、悪玉菌ばかりが増殖してニキビなどの肌荒れを引き起こす」とのこと。
記事では、界面活性剤を『肌バリア機能を破壊する厄介者』と表現しています。
一方、美容化学者の方は、「界面活性剤には害があるもの、そうでないものがあり、冷静に判断する必要がある」と警告されています。
記事全体を読むと、「界面活性剤=バリア機能を破壊する厄介者」・「界面活性剤=危険」という論調ですが、唯一、美容化学者の方が仰ることが正解だと私は考えています。
界面活性剤は危険な成分でも、厄介者でもありません。
記事の論調は、あまりに『短絡的』で『乱暴』です。
美容のプロであれば、化粧品の構成成分をもっと詳しく理解し、全体を見て、慎重に議論すべきではないでしょうか?
次項では、界面活性剤は危険な成分ではないと考える、化粧品開発者の私の見解を述べさせて頂きます。
界面活性剤は危険な成分ではない!
界面活性剤は危険な成分ではありません。
正確に言えば、前出の美容化学者の方が仰るように、界面活性剤には『種類』があり、『危険なモノとそうでないモノがある』というのが正しい解釈です。
ですから一方的に、界面活性剤の大部分を危険と考えるのは『大きな誤解であり間違い』です。
界面活性剤の「種類」と「配合アイテム」を考える必要がある!
記事の後半では、美容化学者の方が、より詳しく事例を示しながらご説明されていますが、界面活性剤には、マイナスの電荷を持つ『アニオン界面活性剤』(陰イオン界面活性剤)、プラスの電荷を持つ『カチオン界面活性剤』(陽イオン界面活性剤)、電荷を持たない『ノニオン界面活性剤』、プラスとマイナス、両方の電荷を持つ『両性界面活性剤』があります。
この中で、肌刺激性の懸念があり、危険とされるのは、電荷を持つ『アニオン界面活性剤』と『カチオン界面活性剤』であり、基礎スキンケア品に多く用いられる、電荷を持たない『ノニオン界面活性剤』は安全性が高く、記事に書いてあるほど危険な成分ではありません。
「アニオン界面活性剤」は『洗顔』に、「カチオン界面活性剤」は『シャンプー』に主に配合されています。これら界面活性剤は、確かに肌刺激性の懸念はありますが、心配する必要はありません。
何故なら、「洗顔」や「シャンプー」は『洗い流し品』であり、長時間、肌や頭皮に接することはあり得ません。逆を言えば、肌や頭皮に長時間接することが無い『洗い流し品』にのみ、刺激性の懸念があるアニオン、カチオン界面活性剤が配合されているのです。
仮に、「洗顔」を誤って「スキンケアクリーム」のように使えば、確実に炎症を起こします。
界面活性剤の危険性を議論するのであれば、上記のように、『種類』(アニオン・カチオン・ノニオン・両性)と『アイテム』(洗い流し品かどうか)を考慮に入れる必要があるにも関わらず、週刊新潮の記事では、この一番重要なところの議論が不十分と言わざる得ません。
これでは読者に大きな誤解を与えてしまいます。
また、記事では『クレンジング』(メイク落とし)にも、洗顔同様の界面活性剤が配合されているように書かれていますが、「オイルクレンジング」や「クリームクレンジング」、「リキッドクレンジング」には洗顔同様のアニオン界面活性剤は配合されていません。
安全性が高い(肌刺激性の懸念が少ない)、『ノニオン界面活性剤』を配合するケースがほとんどです。
クレンジングに、洗顔同様の「アニオン界面活性剤」を配合するなんて、素人の化粧品開発者の、3流化粧品メーカーがすることで、常識的に考えられません。
「洗顔」と「メイク落とし(クレンジング)」を同列に考えて、界面活性剤の危険性を議論する方は、化粧品の成分構成をよくご存じないのでしょう。
アニオン界面活性剤配合の化粧品(洗顔)は、pH 10前後の『アルカリ性』を呈します。
ですから、アルカリ性が肌に悪いと考え、洗顔を含むアニオン界面活性剤配合コスメに対し、否定的な意見の方がいます。
確かに、洗顔後の肌はアルカリ性を呈しますが、人には『アルカリ中和能』という、アルカリ性を中和し弱酸性に戻すチカラが備わっていますから、何ら心配する必要はありません。
ただし、アトピーなど、何かしらの皮膚疾患をかかえている方は、アニオン界面活性剤無配合の『弱酸性洗顔』をおすすめします。
また、洗顔やシャンプー使用後、『洗い流しが不十分』な場合、肌や頭皮トラブルを引き起こす可能性があります。アニオンやカチオン界面活性剤は、肌・頭皮に残すべき成分でないことは事実ですから、これらを使用の際は、十分に洗い流すようにして下さい。
ただしこれは、アニオン・カチオン界面活性剤が危険というわけではなく、あくまで、洗い流しが不十分という『使用法の問題』です。
「(アニオン)界面活性剤が危険」とか、「常在菌を洗い流してしまう」とか、色々なご意見があるようですが、私から言わせれば、これら短絡的な理由で、クレンジング及び洗顔行為そのものを否定することは大きな間違いです。
クレンジングや洗顔には、『肌を清潔に保つ』という重要な役割があり、これら行為をおろそかにし、肌に汚れが残った状態が長く続くことこそが、肌ダメージの元凶です。
クレンジングや洗顔で、肌に必要な皮脂まで落とし、うるおいが失われるというのであれば、その後、『基礎スキンケア』でお手入れをすべきです。
クレンジングや洗顔で失われたうるおいを補給するのが、「化粧水」・「乳液」・「美容液」・「クリーム」の役割です。
クレンジング・洗顔は「洗浄」、化粧水・乳液は「保湿(モイスチャー)」、クリームは「保湿(エモリエント)」のように、化粧品にはアイテムそれぞれに『役割』がある事を忘れてはなりません。
ただし、注意すべき点はある!!
「ノニオン界面活性剤」は、肌の上に長時間接する、化粧水や乳液、クリームなどの『基礎スキンケア品』に配合されます。
何故なら、先ほど述べた、電荷を持つ「アニオン界面活性剤」や「カチオン界面活性剤」に比べ、圧倒的に肌刺激性が少なく、安全性が高いためです。
アニオン界面活性剤は『洗浄力』、カチオン界面活性剤は『毛髪への吸着』に優れるため、それぞれ、「洗顔」・「シャンプー」に配合されますが、ノニオン界面活性剤は『乳化能』に優れます。
化粧品は、「水」と「油」の混合物です。「水」と「油」はそのままでは混じり合いませんから、界面活性剤で『乳化』する必要があります。
この『乳化能』と『高い安全性』のため、ノニオン界面活性剤は『基礎スキンケア品』に配合されるのです。
週刊新潮の論調では、「ノニオン界面活性剤も危険」という事になってしまいますから、安全性が高いノニオン界面活性剤を、アニオン・カチオン界面活性剤と同じく、危険と考えるのは乱暴すぎます。
ただし、注意すべき点はあります。
それが、『安全性基準』です。
「ノニオン界面活性剤」は勿論ですが、洗い流し品に限定すれば、「アニオン界面活性剤」も「カチオン界面活性剤」も危険ではありません。
しかし、化粧品の安全性基準は、2001年の全成分表示制度導入以降、国が定める統一基準ではなく、各化粧品メーカーが定める『自主基準』に変わりました。
国は、大枠は定めていますが、詳細は各化粧品メーカーに委ねられています。
いくら危険ではない界面活性剤でも、配合量を誤れば危険な成分になってしまいます。
ですから、大手化粧品メーカーは、ほぼ全ての化粧品原料に対し、安全に使うことが出来る『配合上限量』を、『自主基準』で定めるケースがほとんどです。
私が以前所属していた大手化粧品メーカーでは、安全性が高いと言われる「ノニオン界面活性剤」でさえ、細かく、配合上限を定めていました。
問題は、配合上限などの安全性に関わる基準は『自主基準』ですから、これらを評価する技術が無いメーカーでは、配合量に関する基準そのものが無いという事。これでは、安全性が高いと言われる「ノニオン界面活性剤」ですら、未熟な技術力のせいで、危険な成分になる可能性はあります。
ですから私は、このブログで商品をおすすめする際は、大手化粧品メーカーのモノを選んでいます。
「品質・技術に優れる」という事もありますが、大手化粧品メーカーには、『安全性を評価する技術』があり、安全に使える『配合上限量』を『自主基準』で定めているからです。
あまり聞いたことが無いメーカーが、魅力的な宣伝文句で化粧品をアピールするのをよく見ますが、安全性に関する基準は各化粧品メーカーの『自主基準』であり、これらを評価する技術が無いメーカーでは、『自主基準そのものが存在しない』可能性が高いですから、注意が必要です。
おわりに
いかがでしょうか?
化粧品に配合される界面活性剤は、週刊新潮の論調のような危険な成分ではありません。
確かに、肌刺激性の懸念がある危険なモノは存在しますが、界面活性剤の危険性を議論する際は、『種類』と『配合アイテム』まで考慮に入れる必要があります。
また、成分の『安全性評価技術』は日々進歩していますし、化粧品メーカーはユーザーに安心して使って頂くために、「ヒトパッチテスト」や「代替法」などを用いて、配合成分の安全性を評価しています。
今回の週刊新潮の、界面活性剤の大部分を危険と考える論調では、これまでの、そしてこれからの化粧品メーカーの安全性評価に対する取り組みを否定する事になりかねません。
週刊誌の影響は大きいですから、このような議論をする際は、大手化粧品メーカーに所属する『安全性評価のプロ』の意見も取り入れ、『正しい情報』を世の読者に発信して頂きたいと思います。
<コスメの安全性の真実>
※本記事の内容は個人の見解であって効果を保証するものではありません