コスメの真実 ~元化粧品開発者によるブログ~

アクセスありがとうございます。cosmedeinと申します。十数年、大手化粧品会社で化粧品の開発を行ってきました。その経験を活かし、化粧品をお使いのすべての人々に、『化粧品の真実』をお伝えしたいと思います。普段のお化粧に、是非参考になって頂ければと思います!

資生堂、花王、カネボウ、コーセー、ポーラ、化粧品の市場回収(自主回収)は何故起こるのか?

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『市場回収(自主回収)』は、化粧品に限らず、製造業に携わる人間にとって、最もやってはならない事であり、最も恐ろしい事です。

多額の費用が掛かるだけでなく、ユーザー(市場)からの信頼を一気に失い、企業・事業そのものの存続を脅かす事態が『自主回収』です。

昨今、資生堂の自主回収が目立ちますが、何故『自主回収』は起こるのか?

今回は、元化粧品開発者である私の経験も踏まえ、『化粧における自主回収』について述べたいと思います。

 

1.化粧品業界における、昨今の自主回収

自主回収・市場回収・資生堂・悠香・白斑

まず、昨今の化粧品業界における自主回収について振り返ってみましょう。

 

1-1.悠香『茶のしずく石鹸』

これはもう6~7年前の話ですが、化粧品の自主回収を語るうえで、避けては通れません。

悠香が販売していた『茶のしずく石鹸』に、小麦アレルギーを発症する事例が報告されました。この石鹸には、小麦の加水分解物である、『加水分解コムギ』が配合されおり、この成分が、小麦アレルギーの原因と断定されました。

2011年、悠香は、以前に製造された「茶のしずく石鹸」の自主回収を開始します。この「茶のしずく石鹸」、有名な女優さんを起用してテレビCMを活発にしていましたから、当時は大人気で、2004年からの約7年間で、『約4650万個』を、のべ『約466万人』に販売したと言われています。そして、当時、厚労省が公表した被害者数だけでも『1786人』と、数字を見ても、社会に、そして業界に、大きな衝撃を与えたことはご理解頂けるのではないでしょうか。

加水分解コムギは、古くから化粧品に用いられている成分で、それまでは大きな問題なく使われていました。「茶のしずく石鹸」に配合されていた加水分解コムギ、『グルパール19S』を使用していたのは、悠香が製造を委託していたOEMメーカーのみであり、他社の製造した製品では同様の症例は報告されていません。

アレルギーに関するトラブルですから、人によっては症状が重症化するケースがあります。現に、被害者の中には、「茶のしずく石鹸」の小麦アレルギーによって、パンやパスタなど、小麦食品が食べられなくなった人や、アナフィラキシーを起こして、一時、意識不明になった方もいらっしゃいます。

「茶のしずく石鹸」は現在でも販売されており、問題となった加水分解コムギは配合されていません。あれから7年近く経ちましたが、株式会社 悠香が、市場から、そしてユーザーから信頼を取り戻すには、まだまだ時間がかかるでしょう。

 

1-2.カネボウ『白斑』

まだ皆様の記憶に新しいのが、『カネボウ 白斑問題』です。

カネボウが開発した独自の美白有効成分『ロドデノール』配合の美白化粧品(医薬部外品)に、皮膚が白くまだら模様になる『白斑』の症状が確認されました。

この白斑問題は、医薬部外品における国の承認制度にも問題があったと言われています。しかし、一番の問題は、最初の白斑被害発覚から、商品回収(自主回収)までに『1年半』かかったことです。

最初の被害報告は、2011年10月。そして、商品の自主回収が2013年7月。 これほど長い間、いわば『放置』していたわけですから、被害の拡大を招いてしまいました。

カネボウの場合は、花王との関係もありますし、ブランドイメージを大きく傷つける事態ですから、回収を躊躇する気持ちは分かりますが、ユーザーの生活を豊かにし、社会に貢献する企業のすべきことではありません。ましてや、カネボウのような超一流企業であれば、ユーザー数も非常に多いと思うので、絶対に許されるべきことではありません。

カネボウには、被害にあわれた方々と真摯に向き合い、誠実な対応をするとともに、2度とこのようなことが起きないよう、企業体質を改善し、今まで以上に素晴しい商品を世に出して頂きたいと思います。

「悠香の茶のしずく石鹸」と「カネボウ 白斑」の詳細は、以下記事をご覧ください。

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1-3.資生堂 ボディ用洗浄料の自主回収

2017年7月21日、資生堂は、『香りの異常』を理由に、ボディ用洗浄料の自主回収を発表しました。

対象品目は、「クユラ」「専科」「ベネフィーク」シリーズなどで、その数なんと『約136万本』

「専科」と言えば、洗浄料のトップブランドですし、「ベネフィーク」は誰もが知るメジャーブランドです。

原因は、製造時の不備で、社内規格値に満たない原料を使用したことで、香りの異常が生じてしまったようです。

 

1-4.資生堂 日焼け止めの自主回収

2017年7月21日に、洗浄料の自主回収を発表したばかりの資生堂ですが、その約1週間後の7月27日、今度は、日焼け止めの自主回収を発表しました。

対象品目は、「銀のアネッサ」を含む3品で、その数なんと『最大41万個』

「アネッサ」と言えば、日焼け止めのトップブランドです。しかも、あの資生堂が立て続けに自主回収を発表しましたから、驚かれた方も多いはずです。

原因は、製造工程の不備で、使用感に異常(ざらつき)が発見されたため、自主回収に至ったようです。

 

2.何故、化粧品の自主回収は起こるのか?

『開発』⇒『製造』⇒『充填』

簡単に言うと、上記のようなプロセスを経て、化粧品はユーザーの皆様の手元に届きます。

これら、『各プロセスでの不備』が原因で、自主回収は起こります。

では、順に、各プロセスでどのようなことを実施しているかをご説明します。また、先に述べた自主回収例では、どこのプロセスに問題があったかを考えてみましょう。

 

2-1.開発プロセス

自主回収・市場回収・資生堂・悠香・白斑

私が十数年担当していたのが、この『開発』です。

「開発」では、『製剤化』を主に行いますが、安全性や分析、薬機(旧薬事)など、様々なメンバーと、様々な課題をクリアしながら化粧品を作り上げていきます。

この「開発」は、新製品開発の一番最初のプロセスですから、ここでの不備は、後々大きな問題に発展していきます

先程ご説明した、化粧品業界に、そして、ユーザーに多大な被害を与えてしまった、「悠香 茶のしずく石鹸」と「カネボウ 白斑」が起きてしまったのは、この『開発プロセスの不備』が原因です。

「悠香 茶のしずく石鹸」の場合、配合されていた加水分解コムギ、『グルパール19S』が、小麦アレルギーの原因と断定されましたが、実は、この「グルパール19S」の『安全性』は未確認でした。

このブログでも再三申し上げていますが、化粧品の安全性は、国が定める『統一基準』ではなく、化粧品メーカー独自の『自社基準』です。

国は、配合成分などの安全性の大枠は定めますが、詳細は、各化粧品メーカーの『自社基準』に委ねられています。

ですから、悠香が、安全性未確認の「グルパール19S」を配合しても問題はないのです。

しかし、私が所属していた化粧品会社では、安全性未確認の原料は絶対に配合出来ませんでしたし、原料メーカーからの安全性データに不備(不十分)があった場合、自社で安全性データを取得することもあります。

このように、製剤化だけでなく、配合成分の『安全性』を判断したり、評価したりするのも、この『開発プロセス』の重要な役割です。

「悠香 茶のしずく石鹸」は、開発段階での、配合成分の安全性判断・評価が不十分、つまりは、『開発プロセスの不備』が原因で、ユーザーに多大な被害を与えてしまったのです。

「カネボウ 白斑」も同様です。国の医薬部外品(有効成分)の認可制度にも問題があったとはいえ、開発段階での安全性判断・評価が不十分だったことが原因です。

勿論、もっと早くに自主回収を開始していれば、被害の拡大は防げたものの、根本的な解決にはなりません。『開発プロセス』を確実に実行していれば、白斑被害そのものが起こらなかった可能性は高いです。

「悠香」、「カネボウ」は勿論ですが、全ての化粧品メーカーは、『開発プロセス』の重要性を再認識し、ユーザーに『安全』『安心』なコスメを提供し続けて頂きたいと思います。

 

2-2.製造プロセス

自主回収・市場回収・資生堂・悠香・白斑

『製造プロセス』の役割は、『開発プロセス』で出来上がったモノと同じ、もしくは、ほぼ同じと判断できるモノを製造することです。

「開発」では、せいぜい最大1kgスケールでの製剤化ですが、「製造」では、その何百倍ものスケールでモノを作ります。

スケールがこれだけ違えば、開発と同じモノを作ることは至難の業ですが、そこは、各化粧品メーカーの『製造力(技術)』の見せどころです。

ただし、「開発」と全く同じモノを作ることは不可能です。ですから、「ほぼ同じである」と判断可能な、『幅』で管理します。

これを『規格値』『規格幅』と言ったりします。

例えば化粧水の場合、『pH』を測定しますが、「開発」で製剤化したpHが6.0だとして、「製造」でpH 6.0ぴったりのモノを作ることは無理です。ですから、『pHの規格幅 5.5~6.5』とし、この範囲に収まるのであれば、「開発」と『ほぼ同等』とみなします。

この『規格値・規格幅』は、「pH」は勿論、「粘度」、「硬度」、「匂い」、「色」など、様々な項目で存在し、その値(幅)は化粧品メーカーによって異なります。

このように「製造」では、製造したモノが問題ない品質か、規格幅に照らし合わせて検査し、判断します。

この検査を『バルク検査』と言ったりします。

「製造」に問題なければ、次に「充填」へと移行するわけですが、もし、製造したモノ(バルク)に不備があるにも関わらず、充填してしまったらどうなるでしょうか?

勿論、それは商品とならず、出荷出来ませんが、一度、不具合のバルクを充填してしまったら、バルクは勿論、『容器』も廃棄せねばなりません。

化粧品は、バルクよりも、容器の方が圧倒的にコストが高いです。ですから、容器の破棄は、かなりのコストが掛かります。

もし充填前に不具合が判明すれば、容器破棄をする必要もありませんし、不具合の程度によっては、『修正』と言う行為で、バルクを活かすことだって出来るのです。

ですから、無駄なお金をかけないためにも、確実な品質のモノをユーザーに届けるためにも、『バルク検査』を含む『製造プロセス』は非常に重要です。

先程ご説明した、資生堂のボディ用洗浄料、及び、日焼け止めの自主回収は、まさに『製造プロセスの不備』が原因です。

ボディ用洗浄料では、社内規格値に満たない原料を使用したためと、資生堂は発表しています。

製造したバルクに、pHや粘度などの「規格値・規格幅」があるように、配合原料にも「規格値・規格幅」が存在します

化粧品メーカーは、原料メーカーから原料を購入するわけですが、全く同一の原料を手に入れることは不可能です。原料にも製造工程があるため、その時々の状況によって、ブレます。

このブレを「規格値・規格幅」で管理し、原料が納入された時に、「問題ないか?」を判断し、問題なければ「製造」に使用されます。

これを原料の『受け入れ検査』と言ったりもしますが、この受け入れ検査も、重要な『製造プロセス』の一部です。今回、この「受け入れ検査」に、何かしらの不備があって、資生堂の規格値に満たない原料を製造に使用してしまったようです。

日焼け止めのケースも同様で、「製造工程」での不備により、使用感に異常(ざらつき)が生じてしまいました。

ここで重要なことは、仮に、受け入れ検査をスルーして、規格値に満たない原料を製造に使用したとしても、製造工程で何かしらの不備があったとしても、何故、『バルク検査』で見抜けなかったのか?ということです。

品質的に問題があるモノを、充填する前に見つけ、被害を最小限にとどめるための『バルク検査』なのに、今回の件では、この『バルク検査』が全く機能していなかったと言わざる得ません。

内容を聞く限り、『バルク検査』で発見出来るレベルだと思うのですが・・・。

このように、今回の資生堂の自主回収は、『製造プロセス』、その中でも『バルク検査の不備』が一番の原因でしょう。

 

2-3.充填プロセス

自主回収・市場回収・資生堂・悠香・白斑

『製造プロセス』に問題なく、『バルク検査』をクリアしたら、いよいよ「充填」し、商品として出荷します。

ただし、「バルク検査で問題なし=商品として問題なし」というわけではありません。

化粧品、特に乳液やクリームなどの『乳化物』は、『充填時のシェア(圧力)』で分離などの『品質トラブル』になることはよくあります。

また、充填設備が劣化して、破損した部品が化粧品に混入してしまい(異物混入)、自主回収に至った例もあります。

ですから、容器に充填した後、最後に『製品検査』を行います。

この「製品検査」が、市場に、そして、ユーザーに不具合な化粧品をお届けしないための、『最後の砦』と言っても過言ではありません。

このように、『バルク検査』(製造プロセス)と『製品検査』(充填プロセス)で、自主回収にならぬよう、化粧品の品質を管理しているのです。

ですから、先程の資生堂の例は、『バルク検査』だけでなく、『製品検査』もスルーして、市場に流通させてしまったので、何故止められなかったのか不思議でなりません。

勿論、資生堂の場合は、製造個数が圧倒的に多いですし、製品検査は全製品でなく、抜き取り検査が基本です。しかも私は、元化粧品開発者ですから、実際に不具合品質を見抜くことは難しいと、十分理解しています。

しかし、資生堂ほどのメーカーであれば、どのメーカーよりも『高度な次元での検査』を実施しているはずですし、それが出来るだけの十分な技術力を有しているので、今後は、再度プロセスを見直し、品質確保に努めて頂きたいと思います。

 

3.おわりに

いかがでしょうか?

化粧品は、『開発』『製造』『充填』を経て市場に流通しますが、各プロセスでは、『安全・安心品質』を実現するために、様々な検討、検査を実施しています。

これら、どのプロセスにも問題があってはならず、問題なく確実に実行し、次のプロセスへと移行させねばなりません。

「悠香 茶のしずく石鹸」と「カネボウ 白斑」は論外。

今回、立て続けに自主回収を発表したということもあって、資生堂を例に挙げましたが、どのメーカーも規模の大小はあれ、何かしらの自主回収をしています。

資生堂は、日本No.1の化粧品メーカーですから、自主回収の規模がすごすぎて目立ってしまうということもありますし、資生堂が不備と判断した品質は、はたして本当に不備なのか?という疑問もあります。

つまり、不備と判断したのは、『資生堂の自主判断』であって、その品質のモノは、別のメーカーであれば、全く問題なしと判断されることは十分に考えられます。

資生堂は、品質基準が非常に厳しいので、ほんの少しの異常であっても、他メーカーであれば認めないわずかな異常であっても、『不備』とし、回収に至ったのではないでしょうか?

今回の資生堂の自主回収は、「合計200万個」に迫る規模ですが、不具合品質のモノを提供し続ければ、ユーザーの信頼を失い、ユーザーは離れていきます。

『資生堂ブランドの価値』を守るために、今回の自主回収に踏み切ったのでしょう。

ですから、今回の自主回収で、私の資生堂に対する印象は悪くなるどころか、逆に好印象です。

「少しでも良い品質のモノをユーザーにお届けしたい」という強い想いが感じられました。

ただし、再度、各プロセスを見直し、日本が世界に誇る化粧品メーカーとして、全ての国内化粧品メーカーの見本となるような『最高品質』を実現して頂きたいと思います。