先日、週刊新潮の記事をもとに、『界面活性剤の危険性』について、化粧品開発者の私の意見を述べさせて頂きました。
今回発売された、週刊新潮9月27日秋風月増大号で再度、『界面活性剤の危険性』の特集がなされていましたから、「後編」と題し、私の意見を述べさせて頂きます。
問題は「界面活性剤」の質と量だった!
今回の週刊新潮の記事は、前号の「皮膚科専門医が警告する化粧品の真実」の第二弾的扱いで、「問題は界面活性剤の質と量だった!」と題し、『化粧品と肌ダメージの商品リスト』が掲載されています。
前号同様、「美容化学研究所の所長」、「2名のクリニック院長」、「美容化学者」の、計4名の美容のプロと称する方が意見を述べられています。
これも前号同様、全体的に「界面活性剤は危険」「界面活性剤は悪」という論調ですが、化粧品開発者の私は、『界面活性剤=危険は大きな間違いであり、誤解』と考えています。
今回の記事では、「化粧品の中で特に肌への負担が大きいのは、洗顔料やクレンジングなどの洗浄剤で、主たる成分は界面活性剤である」・「皮脂を過度に洗い流し肌のバリア機能が低下するのが、洗顔、クレンジングのタイミングであり、肌の最大のピンチ」と言っています。
これは、大きな誤解であって、真実ではありません。
次項では、週刊新潮の記事に対する化粧品開発者の私の意見を述べさせて頂きます。
界面活性剤に対する「真実」はコレ!
界面活性剤は危険な成分ではない!!
週刊新潮では、前号と今回、2週にわたって、洗浄剤に含まれる界面活性剤の危険性を論じていますが、界面活性剤には『種類』があり、『危険なモノとそうでないモノがある』というのが『真実』です。
ですから、洗浄剤に含まれる界面活性剤の多くを危険と考えるのは、あまりにも早計で、間違いなのです。
これに関しては『前編』で詳しく述べていますが、界面活性剤の中で、主に洗顔に含まれる『アニオン界面活性剤(陰イオン界面活性剤)』は、刺激性があるため、週刊新潮の論調のように『危険』と考えるのは正しいです。
ですが、洗顔は『洗い流し品』のため、洗顔に含まれるアニオン界面活性剤が、長時間、肌に接することはあり得ません。「アニオン界面活性剤が含まれている洗顔は危険」という週刊新潮の論調は、化粧品の構成成分を理解していない、素人の意見と言わざる得ません。
万一、アニオン界面活性剤配合の洗顔を、『スキンケアクリーム』のように使ってしまったり、すすぎが不十分だったりしたら、アニオン界面活性剤が長時間、肌に接する事になりますから、『肌荒れ』につながり大変危険です。
しかしこれは、『使用法の間違い』であり、「アニオン界面活性剤=危険」という事ではありません。
化粧品メーカーは、「アイテム特性」と「使用法」を考慮に入れて、化粧品を開発していますから、基本、肌刺激性のあるアニオン界面活性剤を、洗い流し品ではない「基礎スキンケア品」に配合することはあり得ません。
アニオン界面活性剤は、『洗浄力』に優れるため洗顔に配合されます。洗い流し品である洗顔ですら、「アニオン界面活性剤=危険」と考え、これらを配合していない洗顔を選んだらどうなるでしょうか?
アニオン界面活性剤を配合していない洗顔は、圧倒的に洗浄力が劣りますから、汚れが肌に残るばかりか、汚れが落ちにくいため、ゴシゴシと『物理的な力』で落とそうとします。
物理的力による洗浄は、『最もやってはいけない行為』ですから、この行為によって肌を傷つけてしまったら本末転倒です。
洗浄剤には、『肌を清潔に保つ』という重要な役割があるため、一部の方を除き、洗浄力が劣る洗浄剤は使うべきではありません。
洗浄剤によって、肌に必要な皮脂まで落ち、うるおいが失われるというのであれば、その後、『基礎スキンケア』でお手入れをすればいいだけの話です。
洗浄剤で失われたうるおいを補給するのが、「化粧水」・「乳液」・「美容液」・「クリーム」の役割ですから、「クレンジングー洗顔ー基礎スキンケア」という『一連の化粧行為』で、トータルに考えるべきです。
私自身も、基礎スキンケアをしないのであれば、アニオン界面活性剤配合の洗顔はおすすめしません。私は『一連の化粧行為』で、界面活性剤の危険性を考えています。
「クレンジング」と「洗顔」を同列に考えるべきではない!!
前号でもそうでしたが、週刊新潮の記事は、界面活性剤の危険性を論じる際、「クレンジング」と「洗顔」を同列に考えがちです。
これは、週刊新潮というより、記事に登場の「美容研究所の所長」が、クレンジングと洗顔を同列に考え論述しているようですが、これは『大きな間違い』です。
そもそもクレンジングには、アニオン界面活性剤は配合されていません。
クレンジングに配合されているモノは、安心してお使い頂ける『ノニオン界面活性剤』がほとんどです。
クレンジングに、洗顔同様の「アニオン界面活性剤」を配合するなんて、素人の化粧品開発者の、3流化粧品メーカーがすることで、常識的に考えられません。
ですから、界面活性剤の危険性を語るのであれば、クレンジングと洗顔を同列に考えることは間違いであり、これらを同列に考えている時点で既に、論理破綻していると言っても過言ではありません。
また、記事中、「オイルクレンジングは界面活性剤が多いため、洗浄力が強い」とありますが、これも『大きな間違い』。
これは、化粧品の研究開発の経験が無い方達による、『机上の空論』です。
オイルクレンジングは、『オイル(油)』で汚れを落とします。界面活性剤も配合されますが、これは、汚れを落とすためではなく、『濡れた手で使えるため』であったり、『洗い上がりをよくするため』です。
つまり、オイルクレンジングに配合の界面活性剤は、「洗浄剤」ではなく、『乳化剤(可溶化剤)』として配合されているのです。ですから、これらは、アニオン界面活性剤ではなく、『ノニオン界面活性剤』ですし、配合量も決して記事にあるような高配合ではありません。
界面活性剤配合量で言えば、水ベースで肌に優しいと言われる『リキッドクレンジング』の方がずっと多いです。
ユーザーの皆様には、机上の空論に惑わされるのではなく、『真実』を知って頂きたいと思います。
ただし、注意すべき点はある!!
以下に記す内容は、『前編』でも記載しましたが、重要な事なので、再度述べさせて頂きます。
ただし、注意すべき点はあります。
それが『安全性基準』です。
「ノニオン界面活性剤」は勿論ですが、洗い流し品に限定すれば、「アニオン界面活性剤」も「カチオン界面活性剤」も危険ではありません。
しかし、化粧品の安全性基準は、2001年の全成分表示制度導入以降、国が定める統一基準ではなく、各化粧品メーカーが定める『自主基準』に変わりました。
国は、大枠は定めていますが、詳細は各化粧品メーカーに委ねられています。
いくら危険ではない界面活性剤でも、配合量を誤れば危険な成分になってしまいます。
ですから、大手化粧品メーカーは、ほぼ全ての化粧品原料に対し、安全に使うことが出来る『配合上限量』を、『自主基準』で定めるケースがほとんどです。
私が以前所属していた大手化粧品メーカーでは、安全性が高いと言われる「ノニオン界面活性剤」でさえ、細かく、配合上限を定めていました。
問題は、配合上限などの安全性に関わる基準は『自主基準』ですから、これらを評価する技術が無いメーカーでは、配合量に関する基準そのものが無いという事。これでは、安全性が高いと言われる「ノニオン界面活性剤」ですら、未熟な技術力のせいで、危険な成分になる可能性はあります。
ですから私は、このブログで商品をおすすめする際は、大手化粧品メーカーのモノを選んでいます。
「品質・技術に優れる」という事もありますが、大手化粧品メーカーには、『安全性を評価する技術』があり、安全に使える『配合上限量』を『自主基準』で定めているからです。
あまり聞いたことが無いメーカーが、魅力的な宣伝文句で化粧品をアピールするのをよく見ますが、安全性に関する基準は各化粧品メーカーの『自主基準』であり、これらを評価する技術が無いメーカーでは、『自主基準そのものが存在しない』可能性が高いですから、注意が必要です。
※ただし、いくら大手のコスメであっても安全性に絶対はあり得ません。
おわりに
いかがでしょうか?
様々な意見があって当然だと思いますが、影響力がある週刊誌の、「界面活性剤の多くは危険であり、クレンジング・洗顔行為を減らすべき」という誤った論調は、いかがなものかと思います。
「クレンジングをする必要のない化粧にとどめれば済む話であって、せめて石けんで洗って落ちる程度に控えるべき」との記述もありますが、これは、人々の容姿を整え、気分を高揚させて実りある日々を送るという『メイクの必要性』・『メイクの楽しさ』を全く理解していません。
確かに本音を言えば、お肌の健康を考えるのであれば、メイク自体は控えるべきですが、それ以上に、メイクによって得られる『メリット』は大きく、まして、界面活性剤の多くは危険で、クレンジングと洗顔を同列に考えている『間違った見解』によって、メイクを控える必要など全くありません。
メイクを楽しみ、実りある日々を送る。肌状態が気になるようであれば、『正しい知識』で、『正しいスキンケア』をすれば良いと私は思います。
週刊新潮の記事を全否定するつもりはありませんが、あまりにも偏った内容ですから、美容のプロと称する方々の中に、『化粧品開発のプロ』・『化粧品安全性評価のプロ』を加えて頂きたいと思います。